ある日、私は一仕事を終え、気分揚々で熊谷駅周辺を歩いていた。
ちょうどお昼時だ。
時間はあるし、腹も減った。
気楽に一人でふらっと入れる店がいい。
ほほぅ、親子丼か。
いいじゃない、いいじゃないの。
よし、ここで食べていこう。
お店の名前は「いなほ」というか。
小料理屋というか居酒屋というか、酒を飲まない私は入る機会がないような店だ。
ランチタイムだからこそ入れるな。
店内もそんな雰囲気、アウェイ感ありありだ。
ランチタイムにもかかわらず、メシだけ注文するのも申し訳ない気分になるが、多分それは気のせいだ。
さて、今日はなんといっても親子丼の気分だ。
スプーンで食べる親子丼とは、この店の雰囲気からすると不思議な感じだ。
よし、これでいこう。
さーて、来た来た。
いかにもな丼、いかにもな味噌汁、いかにもな小鉢。
そこに使い捨てスプーンが何ともシュールで異彩を放っている。
丼の蓋を開けると・・・
立ち昇る温かなダシとタマゴの香りが私の鼻をくすぐる。
眼と鼻と舌に神経が集中する。
「俺は腹が減っていたんだなぁ」ということを再認識させられる時だ。
目の前に現れたるは金色の野。
生命の源であるタマゴが見渡す限りに広がっている。
その素晴らしい光景に、しばし心を奪われる。
蒼き衣を纏いていないのが悔やまれるところだ。
そしてその黄金の大地に埋もれるは生命の結晶である鶏肉。
生命の源と結晶を同時に摂取することは、宇宙を喰らう行為といっても過言ではない。
それでは頂こう。
おぅおぅ、味はけっこう濃い目だな。
鶏肉はしっかり味がしててグー。
たっぷりのタマゴは丁度よい火加減、トロトロにして絶妙の固まり具合だ。
しっかり粒の立ったご飯にタマゴとだし汁が混ざってつゆだくに。
そこに卵の甘みと鶏肉の旨味が合わされば美味くないわけがない。
くぁ~、これだよこれ、親子丼はこれじゃなきゃね!
こりゃあ確かに箸で食べるのには難儀しそうだ。
なるほど、だからこそのスプーンなんだな。
小鉢もついてる。
濃い目の親子丼に、こういうちょっと甘目の煮物はちょうどいいね。
ふぃぃ、ご馳走様でした。
食べる前までは散々難しいことを考えたけど、一口食べた途端にそんなことは消え去っていたよ。
やはり俺は頭より舌で考えるほうが似合っているぜ。
それじゃあ午後も元気で行ってみよう!
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