十数年前、僕は戸田に住んでいた。
そこから東京に仕事に行っていた。
住んでいた所の近くに「とんでん」があった。
当時付き合っていた彼女とたまに行ったっけ。
色々あって、今、僕は籠原にいる。
そしてやはり「とんでん」は近くにある。
懐かしく思い、久しぶりに行ってみた。
メニューを見ると当時の思い出が蘇る。
おお、昔よく食べたメニューがある!
そういえば昔も冬によく来たっけ。
そしてこれを食べながら彼女といつまでも語り合ったっけ。
思わず思い出の品を注文する。
それがこの「いわしちらし」だ。
昔はいわしというと何となく魚ランキングの中ではかなり下、3匹100円くらいのイメージしか無かった。
しかし、これを食べて意識は一変した。
ご飯の上には錦糸卵、その上にはいわしの刺身、イクラ、すり生姜、ネギがふんだんに散りばめられている。
いわしの生臭さなどは皆無、それどころかその身は甘い。
細くて柔らかい骨がくすぐったい。
いわしがこんなに美味いとは!
僕はいわしの本当の美味さを知った。
これには味噌汁がつくが、追加料金で別の汁物に変更ができる。
僕はいつもいわし汁だった。
いわしのつみれが入ったいわし汁は味噌仕立て。
口に入れればほんわり崩れる大きないわしのつみれがまた美味い。
いわしの風味は味噌とよく合う。
これだよこれ。
美味い、そして懐かしい。
こちらはオホーツク丼。
名前のとおり、北海の幸が散りばめられた丼だ。
当時の彼女はいつもこれだった。
一所懸命に美味しそうに食べてたっけ。
僕の半分位しか食べれなかったから、残ったものを食べるのが僕のうれしい仕事だった。
時は流れ、星辰は廻り、運命もまた巡った。
当時の彼女は今、妻となって同じように私の前で相変わらず一所懸命に美味しそうに食べている。
僕は遠い昔に想いを馳せ、万感の想いで微笑みながら妻を見る。
その視線を感じたのだろうか、同じように妻は潤んだ瞳で見つめ返す。
そして妻はこう言った。
「これ、昔より小さくなったよね?」
ああ、残酷なもの、それは時の流れ。
甘い思い出がぶち壊しだよ、ハニー!
※このお話はフィクションということにしておきます。
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コメント
笑っちゃいました
いろんなものが 時代とともに 小さくなっていますよね(笑)
消費者は 気づいている・・(笑)
nonoさま
これが小さくなったのか、彼女の胃袋が大きくなったのか・・・
私は分かっていますけど、懸命にもそれは口に出しませんでした(笑)